ayya # 053 檜山ゆき

  檜山へゆこうと思った。江差、上ノ国、松前といった倭人の根拠地となった地域である。(ただし松前は渡島支庁管内)森の雰囲気や町、道路、商店街の雰囲気が北海道と青森以南でまるきり違うことに気づいてはいたのだが、前回、青森からフェリーで北海道に戻ってみると、函館あたりはそれでもなんとなく近畿地方の雰囲気があると思ったのである。江差、上ノ国、松前といったあたりは倭人には比較的親しみやすい風景であったような気がする。

  いまは概ね静かな漁村といったイメージの地域であるが、道内では主要なあわびの産地である。こうなると干しあわびの貢ぎ物などというのもめでたいものである。北海道は全島が活火山のようなものだから温泉にはことかかない。温泉にはいってあわびの貢ぎ物をいただくとなればオオキミもかくやのお大尽というものであろう。これはめでたい。

 さてお宿が問題となるわけだが、不景気のせいか、旅館のたぐいはあれこれの割引を企画していて、旅行代理店に口をきいてもらうほうがたいていオトクなことになっている。おおむね自分で直接予約をとるよりは安あがりにぜいたくできる。そんなわけで、雑誌、インターネットあたりであわびをくわせる宿にあたりをつけておくと、平田内(ひらたない)と貝取澗(かいとりま)に温泉つきの国民宿舎がそれぞれあり、前者は和洋中各種のあわび料理を後者は刺身、鍋、煮付、磯焼き、釜飯といったメニューだそうである。

  JTBにいってみた。
「檜山地方に観光旅行にいきたいので、適当な温泉旅館はないでしょうか。」
「それなら、湯の川温泉があります。」
ちょっと待て、湯の川といえば函館じゃないか。まるきり反対側である。
「いや、そうではなしにですね、江差とか松前とか上ノ国とか檜山地方にいきたいのですが。」
「申し訳ありませんが、おとりあつかいしてません。」

  観光にかける北海道にあって、檜山地方にはJTBの取り扱いのある旅館は一軒もないのだった。 JTBにもみすてられたのか、檜山地方。結局国民宿舎に直接電話をいれることにした。

松前

  松前は津軽十三湊の安東氏の家来筋にあたる蠣崎(かきざき)氏の居館のあったところで、それが後に松前氏と改姓したのによって松前と呼ばれるようになった。ただし松前町とは最近の名前で江戸、明治あたりは福山といったそうである。

  室町時代のアイヌの蜂起、いわゆるコシャマインの戦いでは安東氏の支配下の道南倭人12館のうち10館が陥落し、ここと上ノ国の2館のみとなったが、そのさい蠣崎氏は降伏するとみせかけて講和に訪れたコシャマインを謀殺することに成功、以降蠣崎氏が道南の主となったという。とはいえ実際のところ北海道の最南端の狭小な土地にようやくへばりついていたともいえそうである。そんなわけでここには北海道では唯一の城跡である松前城(福山城)がある。かつては蝦夷地と本土との交易を独占したこの街も明治以降はささやかな漁村となってはいる。

  わたしが訪れた8月14日という日は3日にわたる松前まつりの中日で時代まつり風の武者行列のパレードあり、神楽あり、太鼓あり、杵ふり舞いありで夜店なども出ていた。パレードは甲胄や薙刀で武装した男女が町を濶歩するのであるがその先頭は地元中学生と覚しきブラス隊である。勢いよく演奏するマーチはなぜか水戸黄門と銭形平次であった。まあいいのか。

  夜には海岸で花火が催されたのだが、不景気のなか、町内商店、企業がスポンサーとなって大小34発ばかりが打ちあがっていたが、海岸には見物客が集まるも1000人とはいまい。見物の衆がたかがしれているものだから真近でよく見えた。さびれ気味の町というのはこういうところは実によろしい。

  しかしこの町は羊羹とスルメがウリらしく本家三浦屋『羊羹』だの北洋家『海苔羊羹』『いちご羊羹』なぞといった看板がそこかしこにあった。が、お盆ということでどの店も品切れなのであった。

  観光で客を呼ぼうという意欲そのものはあるらしく、松前城(福山城)は修復普請中である。 (写真)普請中の松前城の図
ここは北海道で唯一の中世(といっても江戸時代にはいっているので近世なんだが)城郭である。米ではなく、当初から流通で経済をまかなうという面白い藩である。一見天守閣ふうに見えるのはこれまた巽櫓(たつみやぐら)で本丸は広場となっていてかつては御殿があったという。
(写真)巽櫓と城門

まあ、丘の上のおやしきといったところである。石垣はまるでコンクリートのような砂岩でいかにも脆そうである。石積みの技術は低そうであるがまあ、必要がないのだからそれでよいのだろう。件の普請中の部分はそれらしく模様をつけたコンクリートのようであった。

  城の山手には松前藩屋敷と称し、奉行所、商家、漁家、番屋、武家屋敷などの復元がテーマパークふうになっている。復元旅籠ではどういうわけか「納涼オバケ屋敷大会」が催されていた。パーク内には復刻人形などがあり、座敷にあがれるようになっていて、記念写真スポットがそこにもここにもつくってあった。番屋ではなぜかイカ煎餅が実演販売されていて、一枚10円である。けっこうウマい。

(写真)藩屋敷の雄姿

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2002/8/30