ayya # 081 ナノ化粧品をめぐる疑問

  もうかなりになるがナノテクノロジーというやつがブームである。ナノメートルオーダのチューブだのハグルマだの機械だの作っちゃうのである。ナノメートルといえば10のマイナス9乗メートルで10億分の1メートルである。原子のサイズは10のマイナス10乗メートルといったところだから原子10個ぶんである。

  こんな小さな機械で何をするかというととりあえず医療分野が考えられる。その昔『ミクロの決死圏』というのがあって、小さくなった人間が人体の中に入って白血球やリンパ球の攻撃を躱しつつ病原体をやっつけたりなんかするのである。実際に人間がはいってということになると病原体は100万とか一億とかいう数であちらこちらに潜んでいるので掃討戦には100年はゆうにかかるだろうが、脂質やアミノ酸でできた自動機械をこちらも100万とか送りこんでやるということならば問題はないだろう。

  もちろん逆の殺すほうつまり兵器はもっと簡単であろう。最初の48時間なり一週間は全く行動せずに感染を拡げ、つぎの一週間で完全に殺傷、そののち自己を破壊するなんてプログラムはSFなんかではよくありそうだ。けれど、このプログラムにバグがあって自己増殖をつづけ人類絶滅なんてのもパターンである。同じパターンでロボットでも、細菌でもウィルスでも植物でも書けちゃう筋書きではあるけれど。

  ところで、近頃ナノ化粧品というのがあるらしい。大丸一階で広告が目に入った。一瞬我が目を疑った、ナノメートル単位で色をつけたり、線を引いたりするのだろうか。それでその化粧を電子顕微鏡で見るのだろうか。それはそうと、もっと面白いのはフロア全体に大量の女性のポスターがぶらさがっているのであるけれど、そのほとんどがいわゆるWASP系と覚しいのである。客のほとんどはいわゆるモンゴリアンの一目で日本人とわかる日本人あるいは朝鮮系、アイヌ系、すこし減って中国系といったところであろうに全然似ても似つかない「アメリカ白人ふう」ポスターなのである。ここの化粧品は客にあってないに違いない。とはいえユメないしは幻想を売るのが商売であるから、異国風というのはそういうこともあろう。がそれなら、アフリカ系風とかインド系風とか東南アジア風とか各種あっても良さそうなものである。やはりお年を召した御婦人の間では未だにアメリカ白人への羨望というのは根強いのであろうか。そういえば、わが母は進駐軍の呉れたチョコレートと学校給食の恩が忘れられずにアメリカびいきである。そのくせ黒人については油断すると「土人」という言葉が出そうになるタイプだったりする。日本人のアメリカ白人羨望恐るべし。

  閑話休題。ナノ化粧品である。NHKニュース解説によるとそういうことではなくて、炭素らしい。炭素つまり炭である。ナノメートルサイズの炭を皮膚に擦り込むのだそうである。そうすると表皮の隙間から真皮にまで炭がはいってゆくのだそうである。そうして皮膚内部の活性酸素と結びついてこれを二酸化炭素とし、その後体液に溶けこんで汗とともに排出されるか、肺から空中へと放出されることになる。

  酸素はわれわれ好気呼吸をする動物にとっては無くてはならぬものであるけれども、そもそもかなり強烈な毒ガスである。それというのも生物の体は細胞でできているけれど、これは脂質やアミノ酸で構成されている。酸素はこれを酸化してしまうのである。細胞の表面はもちろんDNAさえも傷がつく。地球上にはもともとほとんどなかったものである。あるとき、藍藻や光合成細菌など猛毒ガスである酸素を吐き出す生物が登場し、大気と海洋を汚染したわけである。ところがその毒ガスによって身体を冒されながらも逆にそれを利用して巨大なエネルギー(無気呼吸の19倍)を得る生物が出現した。それがわれわれ好気性生物である。

  それ以前からいた嫌気性生物はささやかなエネルギーを使いつつ、毒ガスの及ばない片隅でひっそり生きている。世界のあらかたはこの毒ガスにまみれ、毒ガスと共に暮らす生物であふれている。ここらへんでは我々はナウシカに出てくる腐海の周辺に暮らす人々に似ている。われわれは腐海の毒に身体を冒されながらも、その毒のない世界には生きられない。「その朝は君たちは迎えることができない」のである。

  さて、活性酸素を除去するナノ化粧品の威力はわかった。しかし、酸素と炭素が結びつく際には相当の発熱があるはずである。なにせ石炭の燃焼と事情は同じであるから。ということはナノ化粧品を皮膚に摺り込むとやっぱりポカポカ暖いのだろうか。もしそうならば、札幌の冬にはまことに格好の御物ということができるだろう。夏は汗がいっぱい出そうであるが。いっそ末端冷え冷え症によいかもしれない。

[前へ] [次へ]
[Home] [目次]

2003/11/16