ayya # 076 映画『ガザ回廊』見物

  行ってきました。映画『ガザ回廊』。ストーリーは案内のとおりなのですが、全編はインタビューと光景の描写のみ、説明的なモノローグはなしでした。ちょっと好感がもてたのは訳知り顔のインタヴュアーはいっさい登場せず、質問などはカメラの背後からされていて、被質問者の視線がカメラのこちら側にいる人々の存在を明示してたところです。

  例によって、イスラエル軍の戦車やアパッチヘリが突然やってきて逃げまどう人々にさんざん乱射しまくって大勢死ぬという光景が繰り返されるわけなんですが、最近は神経ガス弾を使うようです。甘い香がして、全身がぶるぶる震えて胸が苦しくなるのだそうです。病院にかつぎこまれる人も大勢いるけれど、病院としても治療法がないんだそうです。ただイスラエル軍は学校に行く子供たちを狙って銃撃をしたり、オモチャ爆弾(オモチャを放っていって拾うと爆発するというやつ)を多用しているので子供は主要な攻撃目標みたいです。死傷者の25%は15歳以下とのこと。

  インティファーダ(民衆蜂起)で基地や戦車に投石したところで効果はなくて、いたづらに死傷者が出るだけなんだけども、友達や親、親戚の惨殺現場をいっぱい見ているので、生き残ることに希望を見いだせないばかりか、生き残って酷たらしいものを見つづけることが辛いようです。ここらへんは浄土一揆の「厭離穢土欣求浄土」とかそういう雰囲気でした。自分だけ生き残ることが死んでいった友達に申し訳なく思えるみたいな雰囲気もちらほら。

  しかし、親のほうは危いからやっちゃダメだ。と必死で止めようとする。その親がまた自分は第一次インティファーダで投石してたクチだったりして。でも親に隠れてついついやっちゃうのでした。その意味では自殺衝動のなせるワザでした。

  厭離穢土欣求浄土とは書いたものの、投石する子は自分の行いが殉教して天国に迎えられるに相応しいとは思ってなくって、地獄と天国の間の山の中にはいりたいんだそうです。そこらへんユダヤの人はある意味親戚だという感覚はあって、そういう意味で宗教的熱狂からはほど遠そうではありました。

  ところで映画では農業のようすがまるで描かれていません。パレスチナの人は農民だったひとが多いはずなのですが、「緑の大地」と呼ばれる豊かな農業地帯のパレスチナはあらかたイスラエルに盗られてしまったのか、と思うとそればかりではないようです。映画で少女と老婆が「戦車が木を切った、木を切った、おじいさんが植えたオリーブとなつめやしを」と大騒ぎしていました。どうも農地は頻繁に軍隊に荒らされてしまうようです。

  映像には本や文章にはない訴求力はあるんだけれども、やはり基礎知識はあったほうがわかりやすいとは思います。映画で、イスラエルが道路を封鎖したといってガザのひとが負けるもんかと海岸をわたるのだけれども、これはガザ地区に三本あったメイン道路のうち二本がユダヤ人専用にされてしまい、残る一本がしばしばイスラエル軍が封鎖してしまうというわけでした。で、通勤とか買物とか日常生活、経済活動が麻痺するわけです。パレスチナ人にとっては日常生活を送ることがそのままイスラエル軍との闘いになってしまうんだそうです。

  自爆テロの背後には「黙って殺されるくらいなら」といった事情があるようです。ぼくらにはワケのわからない現場主義のノリがあって、シノゴノ事情なんか聞いてないで現場に行って実状を見さえすれば真相がすべてわかるみたいな感覚があります。でも「てぶら」で現場にいったところで見れども見えず、何を見ればいいのかもわからない、ということもありそうです。

  解説を読むまえはわけのわからない退屈な絵が解説を読んだとたんに、活き活きと躍動してみえるとか、いくら現実の大砲のタマを眺めていても力学を学ばなければ弾道計算はできないとか。この映画については事前に森沢典子『パレスチナがみたい』(TBSブリタニカ)を見ることをオススメします。わたしは逆順であとから講演と本とで理解できた次第。どうやら、事情がわかる人ほど衝撃的な映像らしく、講師の古居さんはほとんど腰を抜かしていて、しばらく言葉が支離滅裂になってました。

  古居みずえさんの講演のほうでは「外出禁止令」のもつ心理的効果について強調したいようでした。外出禁止令が出ると外に出ると銃撃されちゃうわけだけど、一日二日で済むわけでなくて三ヶ月とかつづくものだから、食べ物が無くなっちゃうし、収入が無くなっちゃうし、仕事できないし経済活動が不可能になっちゃうから経営者は経営ができないし雇用者は職場そのものがなくなっちゃうし、とじこもっていると気も塞ぐし、子供は学校に行けないから文盲になっちゃうし、もうたいへん。だそうです。

  でも、いちばん、ほう、と思ったのは住民がどうやって外出禁止令が出たことを知るかです。戦車が鉄砲をばんばん打ちながら外出禁止令と連呼するんだそうです。で、その解除なんですが、これはわかりようがないんだそうで、銃声が聞こえなくなったからソロソロかなあ、と外に出てみると銃弾の雨が飛んでくるんだそうです。

  イスラエル軍の獲得目標はよくわからないけれど、さしあたり生産・経済活動と教育活動を徹底的に妨害して、難民を難民のままにしておくことを重視しているみたいでした。

  ところでテレビのニュースではイスラエル軍の侵攻とパレスチナ人の自爆テロが報道されるわけですが、パレスチナ人が何を希望しているのかについてはあまり報道されていないようです。パレスチナ人というのはムスリムのひとは多いですがクリスチャンもいればユダヤのひともいて、さらにべつの宗派のひともいる。けして宗教対立ではなくて、イスラエルに出ていけ、といっているわけでもない。ただ、平和を、イスラエルの軍隊が恒常的に生活・経済行為を妨害することをやめてほしいだけ、だそうです。


註1
   映画「ガザ回廊」 
   講演とビデオ 古居みずえ氏

   映画ガザ回廊
   2002年制作 74分/カラー  
   ドキュメンタリー 日本語版監修 JAPAC事務局
   監督・制作・撮影・音響:ジェームズ・ロングレイ

   この記録映画は、少年の目を通した世界として描かれていく。その主人公は、ガザ市に住む13歳のモハッムド・ヘジャジ。イスラエル軍の戦車に命がけで石を投げる“投石者”と呼ばれる少年たちの一人である。新聞配達で家族を養い、“総選挙にシャロンが勝利”を報じる新聞が着くと、シャロンもアラファトも同じだと悪罵を吐く。更に、映画は彼の内心世界を見せるが、それは絶望感であり、最愛の悪友を殺したイスラエル軍への憎しみであり、死についての考えである。そして遂には、「食い物は要らないから、武器をくれ!」と呟いてしまうのである。

   ラファ地区でパレスチナ人少年が爆殺されたシーンなどでは、彼が死体安置され、死体置き場からモスク、そして墓地に埋葬される全プロセスが、瞬きもできないような緊張感で描かれる。そして、カメラは更に、イスラエル軍の機銃掃射にさらされる隣人や逃げ惑う下校する生徒達の姿を追う。


   講演古居みずえ
   「パレスティナの子供たち」

   インティファーダ翌年1988年から15年間、パレスチナの女性と子どもたちを撮りつづけ、ことし2月から4月半ばまでイラク戦の影でガザの悲惨な現実と向き合っていた。そこで子どもたちは…。古居みずえ(ふるい みずえ) 1948年、島根県出身。

  1988年よりパレスチナのイスラエル占領地を訪れ、インティファーダの取材。パレスチナの人々と生活を共にする中で、とくに女性や子どもたちに焦点をあて、取材活動を続けている。98年からはインドネシアのアチェ自治州、2000年にはタリバン政権下のアフガニスタンを訪れ、イスラム圏の女性たちの取材や、アフリカの子どもたちの現状を取材。新聞、雑誌、テレビなどで発表。

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2003/7/16