radio-boy # 011 LP 復活

システムラックというやつを貰った。ただの棚である。ただ、幅90cm奥行45cm高さ150cmで5段の棚板がある。これで長年ほとんど使われなくなっていたレコードプレイヤーがうまく収まる場所ができた。いつのまにやらメディアの種類ばかりが増殖してしまい、VHSビデオが2台、DVDプレイヤー、LDプレイヤー、DAT録再機、CDプレイヤー、カセットデッキ、パソコンと8種類のソースがぶらさがっている。入力は6回路しかないのであれやこれやのタコ足状態である。オーディオファンとしては落第であろうが、まあよい。

久しぶりにLPレコードを聞くとほんとうに佳い響きである。80年代にCDが出てきたときにはLPとCDでどっちが音がいいかちょっとした論争であった。わたしのところでは20万円ほどのCDプレイヤーと5万円ほどのレコードプレイヤーで同一内容のLPとCDで比較するとノイズ以外は誰が聞いてもLPの圧勝だったものであった。

けれども操作のラクチンさとか、場所をとらないとか、第一CDしか売ってないとかまあさまざまの理由でCDにシフトしてきたようなわけである。その間世の中では「CDに匹敵」すると称しダンゼン劣るMDとか、「CD並の音質」と称し更に似ても似つかないプアな音質を有するMP3とかおおむね操作性の向上と音質上の衰退が進んでいる。

でも確かに比較すればわかるにしても、たいしたクオリティは実は必要でないことも充分承知した。実際売価2万円のミニコンポだって比較対象がなければ音楽を楽しむのに充分なクオリティだと思われる。そのうえ、リモコンまでついていて、あれこれのオマケ機能は全部でいったいどのくらいあるのかわからないほどである。

なのにLPときたら、いちいち表面を拭き、ゴミは落とさねばならず、針先のわたごみをとり除き、針の交換時期に気を使い、20数分ごとに「儀式」のヤマである。でもまさにそのことがレコード鑑賞というものを「趣味」の次元に高めてもいたのだろう。オカルトありありのオーディオ趣味というやつである。手間いらずにそれなりのクオリティというのでは趣味とはいえないだろう。しかし本当に音楽そのものを楽しんでいるのはむしろ手間いらずの側ではある。

マイクロソフト社のX-BOXはDVD-ROMメディアに傷がはいるといって問題になっているが、LPというやつはメディアが摩耗していくのが仕様である。聞けばきいただけ擦り減り、湿気が多ければカビも生える。そんなわけで手持ちのLPは引越しを機会に随分と減らしたけれど、なんやかんやで100〜200枚ほど残ってしまっている。それでも音質上の優位のせいか、LPユーザも世の中にはそれなりにいるらしく、いまも新品のレコードプレイヤーは電器店にあり、レコード針も生産・販売されつづけている。おかげで消耗品の入手も可能である。

手持ちのLPはたいしたものではないが、自分で購入したものだからそれなりに愛着はある。『俺は男だ。サントラ・ミニドラマ付』『太陽にほえろ/俺達の勲章。お徳用カップリングアルバム』などという甚だアタマのイタいシロモノもある。

ミーハーなところではコルトレーンの『マイ・フェバリット・シングズ』『至上の愛』エリック・ドルフィー『アウト・トゥランチ』すこし趣きを換えてジャンゴ・ラインハルト『ジャンゴロジー』などがある。もうちょっと趣きを変えて、ディープパープルの『マシンヘッド』ストーンズの『山羊の頭のスープ』ビートルズの『ヘルプ』なんかもあったりする。こういうのはもちろんCDの格安版なども市販されてようが、こういうのはLPで鳴らすのが作法のような気がする。

やや希少かなというものでは光玄『ばれたらおわりや』などがある。こいつは自分で買ったわけじゃないがナリユキで手元にある。

小学校のときからおれには名前が、3つもあった。
けどおれの家には1つの表札もなかった。
福祉事務所から人がくるときは朝鮮の名前。
学校のやつから電話のかかるときはMという名前。
ヤバイ橋をわたるときはSという名前、

学校では毎日ホームルームで先公がシンナー遊びのはなし
けどみんな知っていたかおれの母親、仕事のニオイ。
クツの裏張りで一日中家ン中ボンドのニオイだらけ
そんな母親の曲がったの背中を、おれは醜いとそう感じてた
なんも、なんも知らない、ガキやった。

誰が喋ってやるもんか、誰に喋ってやるもんか。
いまおれじっとしてる。

『君の胸に』

といわけで在日朝鮮・韓国人差別問題系社会派フォークシンガーなのであった。
といっても差別が悪いとかそういうことでなく、薄汚い裏通りと観光向けの外面とそういう風景への反発と愛着、ダイキライ、だけどそれが自分の根っこ、というまあいわゆるアンビバレンスである。

聞いてみると、まだデビューして日も浅く、ヘタクソなところも多いがそのぶん迫力と説得力があったりするから面白い。

関西フォーク(とはあんまりいわんか?)でもう少しメジャーでブルーズ調なところでは上田正樹と有山じゅんじ『ぼちぼちいこか』

こんど給料貰ったら、ぼくは背広が買いたいぞ。
あたしはブラウス欲しいわあ。
そして、のこりでスキヤキ食べましょう。

みんなの願いはただ一つ。
お金はやっぱりあるほうがいい。

『みんなの願いはただひとつ』

給料は安くて物は高かった世相が反映している。ブラウス一着がなかなか買えなかったもんである。ユニクロはまだなく、渾身の気魄でもって千円札4枚握りしめて、ニチイのおばちゃんに「勝負や。これを、この特売3980円を、ワシにくれぇー!」と誰しもが絶叫したように記憶している。といって実はいまだにユニクロにいったことがなく、近所の地元系スーパーとワークショップ光成でこと足りてはいるが。

これでようやく、このディスクたちにも出番があるというものである。

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 2002/3/23