autobiography #8 アイスが固い。

  いよいよ夏本番である。昼下がりに道路に日が照って、風景がユラリとするのが好きである。50円玉または100円玉を握りしめて角店にいき、アイスクリームを買って、路上で食すのである。これこそは憧れの夏休みの風景である。暑いさなかに仕事に行き、仕事をしなければならないというのはきわめてガックリなはなしであるが、暑い、暑いと汗を流し、ブラブラ呆けているのはゴクラクである。こうした場合、アイスはレディボーデンだの、ハーゲンダッツだののブランドが冠してあってもいいわけだが、50円握りしめて角店、路上立ち食いという観点からはここはばっちり、ホームランバー、アイスモナカ、ビッグクランチなどといったブランドがベターといえよう。

  しかしながらこのてのアイスは実はアイスクリームではなくラクトアイスといって乳脂肪分が少ない。ために低温ではカチカチになるのである。おまけに、低温ではアイスの味がしなくなる。とけかかりがうまいのである。ここらへんは果物にも似ている。だが我等の角店というヤツは外にアイスクーラーがおいてあり、かつ客がよくフタを開けてゴソゴソやるせいもあってほどほどの温度に保たれている。

  かくて幸福の午後はおとづれるのである。けれども幸福な時代はいつしか過ぎ、成長したわたしはやっぱり、暑いさなか外でアイスをいただくことにかけがえのない幸福を感じている。が、いつしかおばちゃんの角店は姿を消し、コンビニエンス・ストアがこれにとってかわった。問題は温度管理である。そのての店舗はどういうわけかやたらめったに冷房を講じてあるうえに店舗内にアイスクーラーが設置してある。おかげで、わたしの愛するラクトアイスの一群はすっかりかちかちである。いきおいよくカプッとやるとガチンと音がしアゴのみならず、側頭部にまで痛みがキーンと走ってしまう。

  ならば、しばらく待てばいいのである。外はまばゆい日射しと30℃を上回る気温である。しばらく待てば望みのものが登場しようというものである。が、そうは問屋が卸さない。温度差があり過ぎて外側の温まるタイミングと内側のそれとが全然あわない。だがそれ以上に問題なのは待ってる人間の忍耐力である。

  灼熱の日射し。右手には汗をかいていくアイスの外被。誘惑。もうボツボツいいかもしれない。待ち過ぎはとり返しのつかない悲劇を呼ぶ。過ぎたるは猶及ばざるが如しというではないか。冷たくってウマそうだぞう。…。


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  かくして、昔はよかったなあと過去を美化するタワケモノがそこにはある。

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2001/07/19